トップ > e-デス ちゃんねる > 愛すべきお客様 > なんてやさしいお客様

なんてやさしいお客様

なんてやさしいお客様


最近、とても感動することがあった。それは、ニューヨークに行く便でのこと。

私は2階席の担当だった。その日はほぼ満席で、2階もほんの5、6席しか空いてなかった。
客層もさまざまで、家族で席が離れてしまったと訴え、クレームする外国人もいたりして、出だしから大変だった。これからの12時間が思いやられるようであった。
それでも何とか時は過ぎていき、朝食サービスの時間になった。これを乗り越えれば、ニューヨークに着く、今回は何をしようかな、とわくわくするとともに一番疲れがたまってくる時間である。
私はきっと注意散漫になっていたに違いない。一番前の列の窓側に座っているお客様のトレイを下げるときに、何かに手が触ってトレイの上にのっているヨーグルトを通路側の席のお客様にこぼしてしまった。さあ、大変!見るとそのお客様のズボンに点々とヨーグルトが飛び散っている。
そのお客様は30代前半ぐらいの男性、見たところビジネス旅客という感じである。その方に対する私の印象はあまり良くなかった。思い返せば乗ってきたときも、「こんにちは、いらっしゃいませ。」という私の呼びかけにも答えないばかりか、ジロリとこちらを見て席に着いてしまった。サービス中は特に印象はないけれど、何だか覇気がなかったような気がする・・・。30代前半ぐらいの方からのクレームは意外と多いので、私はやっかいな事になったな、と憂鬱になった。

とにかくトレイの回収は中断して、私はお詫びするとともにお客様のズボンを一生懸命拭きはじめた。私の拭いている様子をお客様は、神経質そうに見ている。幸いヨーグルトはベットリとはついてなかったので、しばらく拭いていたら何とかきれいになった。
お客様も一応納得して、「今はぬれているから落ちたように見えるけれど、後でまたしみが出るかもしれない。」とのこと。私は「それではしばらくしてから、また様子を見に参ります。本当に申し訳ございません。」と言って、次の列のトレイを回収し始めた。するとまもなく、またそのお客さまから、「ここにも付いてました。」と、新たなしみを見せられた。あああ、ほんとに大変なことになった。また私はトレイの回収を止めて、スボンを拭きにかかった。到着前の時間は忙しい。朝食サービスの後も、免税品のカウントをしたり、書類を書いたりといろいろやることがある。しかもまだトレイの回収が終わってないばかりか、かなりのお客様をお待たせしている。一緒にやっているもう1人のクルーは、自分が持っていたカートにトレイがいっぱいになると、ギャレーに引っ込んでしまって出てこない。時間がたっていくあせりとイライラとで、私は何度かギャレーの方を見てしまった。するとそのお客様は、「時間大丈夫ですか?拭くもの貸してくれたら、僕自分でやりますけど・・・。」と、声をかけてくれた。私は、急に恥ずかしくなった。悪いのはこっちなのに・・・。とにかく私は最後まできれいにし終わってから、やっと食事のトレイの回収も終えた。その間、トイレにも行けず、じっと席に座って待っていてくれた他のお客様にも感謝、感謝。

ズボンは一応きれいになってしみも落ちたけれど、あまりにも申し訳なかったので、チーフパーサーに許可を取ってクリーニング券を出してもらった。それを持ってお客様のところにお詫びに伺い、「本当にきれいなお洋服をよごしてしまって申し訳ございませんでした。お仕事にさしつかえございませんでしょうか?」と言うと、「大丈夫です。仕事の時はこれをはきませんから。それに僕、前グラタンをこぼしたこともあるので・・・。もっとひどい。ははは・・・。」と、笑っていた。私はその日初めてそのお客様の笑顔を見た。神経質そうに見えていたけど、シャイなだけだったのかもしれない。
でも、私は考えてしまった。もし私が自分の洋服に、人から何かこぼされてしまったら、あんなに感じ良く応対できるだろうか?それなのに私はすまないという気持ちよりも前に、その後の仕事のことなんかを考え、イライラしながら対応してしまった。
深く反省するとともに、暖かいお客様の気持ちに触れてしまった1日だった。


by ほろ酔いくま